○LINK
カテゴリ
以前の記事
2018年 02月 2017年 05月 2017年 02月 2017年 01月 2016年 05月 2014年 08月 2014年 06月 2014年 05月 2012年 09月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 04月 2012年 03月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 04月 2011年 01月 2010年 12月 2010年 11月 2010年 10月 2010年 09月 2010年 08月 2010年 07月 2010年 06月 2010年 05月 2010年 04月 2010年 03月 2009年 12月 2009年 07月 2009年 05月 2009年 02月 2009年 01月 2008年 10月 2008年 09月 2008年 08月 2008年 07月 2008年 06月 2008年 04月 2008年 03月 2008年 02月 2008年 01月 2007年 12月 2007年 11月 2007年 10月 2007年 09月 検索
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
![]() すると、会場を何度も周回していた白髪の男が近づいてきて、深く吐息をつくように語りかけてきた。 「いやぁ、驚いた…。びっくりした…。凄いよ。凄い。こんな写真があるんだね。こんな表現があるんだね。いいものを拝見させてもらった…。ありがとう。ありがとう」 どこかで見た顔だった。 声にもどこか聞き覚えがあった。 直接お会いしたのではない。 テレビかなにかで見たのかな? そんなことを思っていると、男はまた会場内をぐるりと見渡して、「ありがとう、ありがとう」とつぶやくように言った。目にはうっすらと涙が浮かんでいた。 「ありがとうございます」とぼくも頭を下げた。 「橋口です」と男は言った。 あっ、と思った。 「橋口譲二」さんですか、と横にいた友人が尋ねた。 「はい、いただいたDMがとてもよかったので、来てみました。びっくりした。こんな写真が撮れるんですね。素晴らしかった。素晴らしかった」 顔を上気させながら、それでもゆったりとした口調で橋口さんは同じ言葉を繰り返した。 橋口さんの著書にもっとも親しんだのは、ぼくがまだカメラを手にする前の90年代の半ばだったと思う。 「十七歳の地図」「視線」「職」「ベルリン物語」。 時代を写した丹念な取材と、穏やかでありながら凛として骨太なその写真群は、音楽表現にどこか子供騙し的なむなしさを覚えはじめていた当時のぼくに、カメラを手にするきっかけを与えてくれたように思う。 荒木さんも森山さんもあるいは藤原新也さんも格好良くて華があるけれど、あのような人間的煌めきは自分にはない以上、橋口さんのような粘り強い地道なスタイルが合っているのではないか。そんな風に感じていたのだった。(もっとも、その肝心の粘り強さが自分には欠如していることがすぐに露呈するのだけれど‥) 写真の話、文学の話、共通の友人の話、そんな話にひとしきり花を咲かせたのち、橋口さんは帰ってゆかれた。 「写真も、そして日本も、まだまだ捨てたもんじゃないんですね。教えられたなぁ。来てよかった。ほんとうにびっくりした。ありがとう。ありがとう」 橋口譲二というその孤高の写真家と交わした会話の一つひとつを思い返しながら、会場内の写真を改めて見て回っていると、なぜだろう、不覚にも涙が込み上げてきた。
by koikehidefumi
| 2017-01-20 09:19
|
ファン申請 |
||